『穂積八束集』
(日本憲法史叢書7)
穂積八束著;長尾龍一編・解説
信山社(2001年)
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今、この国の憲法が問われている。今こそ、歴史の扉を開き、この国のかたちを考える時だ。
憲法とは、司馬遼太郎が言うように、「国のかたち」である。約130年前の1889年、この国のかたちが示された。大日本帝国憲法の公布である。明治という時代が始まって22年目の春のことだった。その直前、一人の男がドイツ留学から帰国し、3年前に出来たばかりの帝国大学法科大学の教授に就任する。わずか30歳であった。彼はドイツで、政府の命により、欧州制度沿革史と公法学とを学び、日本に凱旋した。そして、初代の日本憲法学教授として、明治という時代を丸ごと生きた。その男の名を穂積八束(ほづみやつか)という。
しかし現在、憲法学の基本書を開けても、彼の名を見ることはほとんどない。彼は、もはや過去の人のようである。だが、それは今に始まったことではない。穂積八束は生前から、異端の憲法学者であった。
そんな彼に、光が当てられた。そして、この本が生まれた。この本には、日本の憲法学を切り拓いた穂積八束の主要な著作が多数収められている。
おそらく最も有名な作品は、高等学校の日本史の教科書にも、その題名が載っている「民法出テヽ忠孝亡フ」という論説だろう。そうは言っても、この論説を読んだことがある人は、まず、いないはずだ。文章も、決して簡単ではない。だが、腰を据えて、この論説をじっくり読めば、きっと、誰もが気づくだろう。今の時代にも通ずる大切なことが、そこに書かれていることを。そして、この国のかたちを真剣に考える重要なヒントが隠されていることを。
あえて言う。スマートフォンで検索しさえすれば、わからないことが何でも瞬時にわかってしまうと思っている君へ。
難しい文章を苦労して読め。そして、先人の言葉に耳を傾け、ものごとを自分の頭で、じっくり考えろ。
解説と呼ぶには、あまりに長文な、長尾龍一氏の論文が、私たち読者を穂積八束の奥深い世界へと導いてくれる。
2018年10月
こども学科 准教授 長沼秀明
一般図書
[請求記号:323.12/N/7]