『ネガティブ思考こそ最高のスキル』
オリバー・バークマン 著 ; 下 隆全 訳
河出書房新社(2023年)
(心理学科 原 恵子 教授 推薦図書)
みなさんは普段、どのような思考をしがちでしょうか?多くの方はきっと、ポジティブな思考になる場合もネガティブな思考になる場合も、両方の場面があるのではないでしょうか。もし仮に「いつでもどこでも楽天的に、ポジティブな思考であれたらなあ」と思った方、実際にはそのように思う必要はないようです。
本書のある一章では、ストア哲学での考え方を取り上げています。「物事が将来どこまで悪くなるか」を考えることは、一見悲観的に思えますが、将来の不確実性に対する準備へつながるとのこと。例えば、今後に向けた行動につながるなど、結果的にはよき方向に向かうことが多いようです。別の章では、人生には困難や失敗がつきものであり、成功例にしか注意を払わないのは大きな問題であると語られています。失敗を恐れ考えないようにするのではなく、失敗に目を向け、その後の行動につなげていくことが大切であるとのことです。また、将来の望ましい姿を計画することに精力をかたむけすぎることよりも、不確実な状態に耐える力を持つことで自分らしさやペースを取り戻せるといったエピソードを紹介した章もあります。
いかがでしょうか。悲観したり、心配したり、失敗したり、不確実なことにもやもやしたり、それらは全て意味があり、人の成長につながると考えられそうです。ポジティブな思考だけを過大評価することなく、ネガティブな思考も含めてバランスをとることの大切さを、改めて考えさせられます。
著者は、イギリス出身、ニューヨーク在住のジャーナリストで、多様で柔軟な発想に魅力を感じます。前著となる『限りある時間の使い方』の中では、生産性や時間に追われるといった罠にはまらないアイデアとして、「できなかったことではなく、できたことを意識する」「ありふれたものに新しさを見出す」「何もしない練習をする」などを紹介しています。
2024年6月
心理学科 教授 原 恵子
一般図書
[請求記号:159/B]