もやもやした心の病をすっきり科学的に解明する

『「心の病」の脳科学 : なぜ生じるのか、どうすれば治るのか』

林(高木)朗子, 加藤忠史 編
講談社(2023年)
心理学科 安崎 文子 教授 推薦図書)


 

 心の病について、ニューロンや遺伝子の観点から解明しようとした本である。この分野の書物は一般に非常に難解だが、本書はブルーバックスでもあり比較的読みやすい。

 心の病は、実際は脳の中で起こっている問題である。精神神経科は、病気の解明に脳のニューロンや遺伝子についての研究へと進んでいる。しかし、ストレスや不適応にしても、とても曖昧な理解のままである。そして、これは新入生の学生だけではなくて、一般人についていえることだが、「心の病」を単なる気持ちの持ち方と勘違いしている者も多い。この曖昧さについて、私はより科学的に理解したいという願いを常に持っていた。最も肝心な点は、原因や機序がわかることで、治療方法も解明できるかもしれないからである。

 例えば、ストレスは必要か不必要か。全くないのも良くないと、しばしば曖昧な表現が使われている。実際、短期間のストレスではニューロンの樹状突起は増えるが、慢性的に続くと脳は萎縮する。これは何故か。急性ストレスでドーパミンを放出するニューロンが活性化して、樹状突起が増えるからである。しかし、 1日10分でも数か月にわたりストレスを受けるとダメージ関連分子が発生する。すると、脳内の異物を排除する免疫に関わるグリア細胞が活性化してダメージ関連分子を排除するが、このとき脳内の炎症も起き、樹状突起も退縮しうつ病となる。グリア細胞はとても重要で、脳内の免疫や栄養補給など非常に重要な役割を持っている。ちなみに、脳腫瘍は、グリア細胞の細胞分裂の際、DNA複製過程でのミスコピーで起きたものでもある。グリア細胞の働きは活発なのである。

 「レジリエンス」とはストレスに対する強い抵抗性だが、レジリエンスも不可思議である。ストレスに対する強い抵抗性のある遺伝子が働いている群があるようである。こうした抵抗性についても更に研究がすすみ、皆がタフネスを持てるよう進化することを希望している。

 

 

2023年10月
心理学科 教授 安崎 文子

一般図書
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