この本から読み取れるのは、この本に「書いてないこと」

『新しい分かり方』

佐藤雅彦 著
中央公論新社(2017年)
子ども発達学科 奥住 桂 准教授 推薦図書)


 

 「みなさんに読んでもらいたい本」をご紹介するコーナーなのに、こんなに文字の少ない本を紹介してよいものでしょうかね。でもたぶんこの本を開くと、じっくり読んでしまうと思います。そんな不思議な一冊です。

 著者の佐藤雅彦さんは、元々著名なCMプランナーですが、その後「分かるということ」や「伝え方」や「表現方法」などを広く「コミュニケーション」と捉え独自の方法で突き詰めて来た方で、慶應義塾大学や東京芸術大学でのお仕事の他に、NHK教育テレビ(Eテレ)『ピタゴラスイッチ』や『0655/2355』などの番組制作でも知られています。

 みなさんがこの本から読み取ることは、たぶんそこに「書いていないこと」です。しかも、もともと写真がいっぱいの本ですが、実はその写真にすら「写ってないこと」を読み取り、考え始めます。誰もそうしなさいと言っていないのに、勝手にそうしてしまうから不思議です。例えば、板に打ち付けられた釘と石の写真を見たあと、同じような板と釘とバナナの写真を見ると、「ああ、バナナで釘が打てるんだな」なんて考えてしまいます。どこにもそんなことは書いてなくて、ただ釘と板と石とバナナと写真が並んでいるだけなのに、脳がそう錯覚してしまうのでしょう。しかも「バナナは凍ってたのかもしれない」なんて頼まれてもいないのにフォローしてあげてたりするから面白い。(しかし、文字でこの本を説明するのは難しい!一度手に取って開いてみてください。)

 人間の脳って、面白いなと改めて感じます。こういう仕組みを上手く使って、人に上手にメッセージを伝えている人たちもいるし、悪用して人を騙している人たちもいるのでしょうね。そして、意外と簡単に騙されてしまう自分の脳のクセに気づいてショックを受けていたりと、読んだ後まで「書いてないこと」に振り回される一冊です。

 

 

2023年7月
子ども発達学科 准教授 奥住 桂

一般図書
[請求記号:757/S]

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