『魔女ジェニファとわたし』(岩波世界児童文学集 ; 19)
E.L.カニグズバーグ 作 ; 松永ふみ子 訳
岩波書店(1994年)
(こども学科 佐々木 美和 准教授 推薦図書)
卒業や入学、新しい学期の始まりなど、今までと異なる環境で新しい人との出会いが待っている春。
でもいざ新しい世界に足を踏み入れても、喜びや期待よりも緊張や不安の方が上回ったり、うまく適応できなかったりすることもあります。主人公「わたし」(エリザベス)も、そんな少女です。
『魔女ジェニファとわたし』は、アメリカ人作家E.L.カニグズバーグによる児童文学作品で、大都市近郊に暮らす現代の子どもたちの日常生活と彼らの心の動きを見事に活写しています。ですが、少女たちの友情と成長の物語と簡単に括ること勿れ。人気の理由は、子ども読者たちの日常を彷彿とさせるキャラクターの登場、友人や教員との学校内・教室内での力関係、怪しげな “魔女修業”の儀式といった場面が満載だからです。
実際に手に取って読んでいただきたいのですが、みなさんの中にはこんな疑問を抱く方がいるかもしれません。なぜ大人である大学生に子どもの本を読むように勧めるのか、と。大人が児童文学を読む最大の喜びと効用は、タイムマシーンを発明し乗り込む危険を冒さずに、子ども時代へ戻れることです。言い換えると、再び子どもの視座から世界や日常を眺めることが叶うからです。作中のなんてことない風景描写に、既視感にも似た懐かしさを覚えて、私は胸がキュンキュンすることがあります。本作では物語の冒頭、「わたし」が魔女を自称する同級生のジェニファと遭遇する直前の場面です。
アパートの子どものなかには、小さい林をとおって学校まであるくほうがすきな子たちもいます。そういう子たちが十年間もあるいたおかげで、土がすりへって木の根があらわれ、けわしい坂ののぼりおりにつごうのいい階段ができました。あるくには、歩道より小さい林のほうがたのしいのです。わたしは木のにおいや木の色がすきだからです。首を上にむけて、というよりうしろにのけぞらせるようにしてあるくと、おもしろいのです。青い空に木の葉がつくる模様が見えます。(「1 木の上のジェニファ」より)
大学生のみなさん、特に教員や保育者を目指す学生のみなさんとって、児童文学作品は幼児や児童の教育活動での「使用教材」でしかないかもしれません。しかしながら、幼児や児童への理解を深める意味でも、児童文学作品は大きな役割を有しています。古今東西の作品から、子どもに関する多様な学問領域の事例を読み取ることができるからです。子どもを理解することは難題です。その一助を児童文学の読書が果たしてくれる、私はそう信じています。
2023年3月
こども学科 准教授 佐々木 美和
一般図書
[請求記号:908.3/I/19]