おとながいじめに無関心にならないために。 おとなには心配かけてもいいんだよ

『いじめ克服のために子どもと向き合う』

杉山雅宏著
悠々舎 ; 東京六法出版(2020年)


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いじめはなぜいけないか、それは「権利侵害」だからです。健康で毎日を楽しく生きる権利、学校で勉強する権利、それは当然のことです。このことが侵害されていることは大問題なのです。しかし、いじめは学校だけの問題ではなくなっています。

いじめの問題の本質は社会の中にあります。学校は、子どもを中心とした社会がある「場所」で、その中にはさまざまな人がいて、さまざまな人間関係があります。いじめをする当事者、いじめられる当事者は、家庭の事情や発達障害など、さまざまな事情を抱えています。つまり、どちらにしても助けを必要としている人が多いということです。

その小さな社会の中で周囲が手を差し伸べることもなく無関心であること-仮に関心があっても無関心を装うこと-は、当事者たちの孤立感を高めることになります。周囲からすれば止めたり、他の人に助けを求めたりすることで、「逆に自分がいじめられるかもしれない」という心理が働くともいわれています。しかし、そのことが当事者たちを孤立させ、いじめを助長することになります。周囲の「無関心」が大きな問題のひとつなのです。

人間が暮らす社会には、孤立を予防する完璧なシステムはありません。私たちはすべてのことについて関心をもって生きることは不可能だからです。

しかし、「無関心」が人権侵害につながるということを忘れてはなりません。すべての人におけるしあわせな心の状態を願い、そのような心もちで生活することを心理学的に解明し、援助し続けていく必要性があると思います。

それぞれの家族や学校、社会全体が「今自分は子どもにしっかり向き合えているか」ということを改めて認識する必要があります。

 この本には、たくさんのいじめ被害者の声だけでなく、いじめ加害者の声も紹介しています。加害者もどこかで被害にあってきました。

今こそ大人が立ち止まり、子どもたちの声に耳を傾けるべきではないでしょうか。

著者記す


2020年10月
心理学科 教授 杉山雅宏

一般図書
[請求記号:371.42/S]

 

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