世界を変えることはできなくても、やり遂げたいことはありますか?

『僕たちは世界を変えることができない。』

葉田甲太著
小学館(2011年)


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本書には、作者・葉田甲太氏が、医大生時代に仲間と協力し、カンボジアに小学校を建設した軌跡が綴られています。向井理主演で映画化された頃、好意的な声がある一方で、決して少なくない批判の声もありました。
「なんで医大生が小学校?」
「なんでカンボジア?」
「きっかけは郵便局のパンフレットって、脈絡なさすぎ。」
「偽善。自己満足。」
世間に批判されるまでもなく、葉田氏自身、こうした見方があろうことを本書に記しています。ですが、きっかけが曖昧で自己満足的であることは、それほど問題なのでしょうか。

 

10年以上前の話です。私はある日、マンションの踊り場で一羽のメジロを見つけました。どこから迷いこんだのか、外に出られず混乱して飛び回っていました。放っておけば死んでしまうでしょう。
私は思いつく限りの道具を使い、30分ほどの格闘の末、メジロを確保しました。外に放った瞬間、「途中で戻ってきて、感謝の鳴き声を聞かせてくれたりして」と妄想しましたが、もちろんそんなことはありませんでした。一目散に去って行く姿を、寂しく見送った記憶が残っています。
それでも私は満足でした。理由も脈絡もなく、突発的かつ自己満足的に行動しただけでしたが、ひとつの命を助けることはできました。

 

誰かを思いやる行動の多くは、偶然や勢い、自己満足に支えられています。本書に記されている甲太たちの行動は、行き当たりばったりで危うく、「良い子は真似をしないでね」とテロップを入れたくなる場面も多々あります。それでも、心に芽生えた直感に突き動かされ、時には己の無力さに愕然としながら、掲げた目標を成し遂げた彼らは眩しい存在です。彼らには、無鉄砲ゆえの逞しさがあります。その泥臭い熱情こそが、ほんの少し世界を温めるのではないかと思います。


2020年7月
人間文化学科 准教授 森田直美

一般図書
[請求記号:916/H]

 

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