『手の治癒力』
山口創著
草思社(2018年)
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小さい頃、家族へのプレゼントとして、「肩たたき券」を贈った経験はおありでしょうか。
多くの場合、肩たたき券は思い出の品として使われることはありませんが、時たま、不格好な字で書かれたその券が使われることがあります。頼まれた子どもは、「めんどくさーい」とか「あと何分で終わり?」とか、最初は文句を言いながら始めますが、やってみるとそれなりにふれあいを楽しんでいるように思います。
子どもと大人のふれあいという点では、「いたいのいたいの、とんでけー」という行為も、しばしば見かけます。この時、たいていは大人が子どもの痛がっているところに手を当てて、あたかも痛みを遠くへ放り投げるかのような動きをします。効果のほどはわかりませんが、今日のような科学や医療が進歩した時代において、私たちがしばしば“魔法使い”に変身するのは、なぜなのでしょうか。
これに似たものとして、「手当て」という言葉があります。傷を治すときに使われますが、文字通り、痛いところに手を当てるという行為を、私たちはしばしば行います。それで傷がふさがる、すなわち“治る”わけではないのですが、痛みはほんの少しだけ和らぐ、つまり“癒える”、のかもしれません。他にも、動物をなでるのが好きという人もいれば、頭をなでられると落ち着くという人もいます。触れる、あるいは触れられるという行為が人間を癒すのは、どのような理由からなのでしょうか。
そんな疑問を、本書は科学的な研究成果を引用しながら、丁寧に教えてくれます。
また、どのようにマッサージをすれば大きな癒し効果を得られるのかについても、書かれています。本書を一読いただければ、触れたくなる、あるいは触れられたくなること請け合いです。
「久しぶりに、老親へ肩たたきでも…」と思い出させてくれる1冊です。
2019年12月
心理学科 専任講師 藤原健志
一般図書
[請求記号:492.79/Y]