<明治150年企画>「明治」が現代に問いかける―日本はいかなる針路をとるべきか?

『三酔人経綸問答』

中江兆民著 ; 桑原武夫, 島田虔次訳・校注
岩波書店(1987年)


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日本の近代国民国家が「明治国家」として発足してから150年の歳月が流れました。

 

西洋をモデルに文明化を推し進める一方、西洋列強がもたらす帝国主義状況と対峙せざるを得ない「宿命」を背負わされて出発した近代日本は、国家の存立と発展を課題としながら自らの針路を模索する必要に迫られていました。

民権思想家であった中江兆民が著した本書は、大日本帝国憲法が発布される2年前の1887(明治20)年に刊行されたものです。まさに日本が立憲制を布かんとする時期でもあり、人民の権利や国家的独立がいかに保持されるべきかが論点とされました。本書では「洋学紳士」「豪傑君」「南海先生」の三人が酒を酌み交わしつつ、それぞれの立場から日本の進むべき道が鼎談(ていだん)形式で論じ合われています。
そこで提示される三人の思想的立場こそは、日本の採り得る代表的な対外態度を象徴するものでした。すなわち、民主制の徹底と軍備廃止を唱える「洋学紳士」の理想主義的立場、アジアへの武力進出による大国化を志向した「豪傑君」の膨張主義的立場、そして諸外国との平和友好関係を深めながら立憲制に依拠した防衛戦略を追求すべしとする「南海先生」の現実主義的立場です。

近代日本はこれら三つの思想潮流の間を彷徨しつつ、結果として膨張主義に根差した戦争に突き進むことで破局を迎えるに至りました。現代に生きる我々にとって、この歴史を教訓に失敗を繰り返さないことが必要であることは言うまでもありません。

本書で論じられた三つの思想的立場は、過ぎ去りしものでなく、今なお現代世界においても脈々と受け継がれていると言えます。これからの世界平和を考えるうえで、本書が有益な示唆を与える作品であることは間違いありません。この「明治」の遺産をぜひ一読されることをお勧めします。


2018年7月
人間文化学科 教授 福島良一

一般図書
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