『渋沢栄一訓言集』
渋沢青淵記念財団竜門社編
国書刊行会(1986年)
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渋沢栄一は、「日本資本主義の父」として多くの人々から尊敬される、幕末から昭和初期にかけて活躍した埼玉県出身の偉人です。
渋沢が尊敬される理由の一つは、500社余りの企業創設に関与したという膨大な事績のみならず、論語に基盤を置いた独自の倫理観に基づき、それらの企業を私物化しなかったという潔さが多くの人々の心を打つからです。渋沢は自らの思想に基づきそれを恬淡(てんたん)として実行した、まさに言行一致の人物でした。
銀行業を中心とした多くの産業分野に関与した渋沢は、企業家であるとともに教説や訓言を発する啓蒙家でもありました。本書は、その渋沢が90年以上におよぶ実践躬行(じっせんきゅうこう)の人生を通して紡ぎだした珠玉の言葉の数々を、10の章に分けて整理した訓言集です。
昨今若い人々の活字離れが指摘されていますが、本書は順を追って読まなければ理解できない書物ではありません。むしろ、自分が悩んでいる事柄や興味を抱いている分野を各章から選び出し、そこに記されている訓言の中で心に響いたものをじっくり味わうという読み方がお勧めです。
少し残念ですが、明治期の偉人がしばしばそうであるように、渋沢も女性関係にルーズなところがあったようです。したがって、その分野に関する訓言には多くを期待できないかもしれません。その点をご承知の上、皆さんも是非この宝石箱のような一冊を手に取ってみてはいかがですか。
2018年6月
経済経営学科 専任講師 大江清一

一般図書
[請求記号:159.8/S]