『引き算する勇気 : 会社を強くする逆転発想』
岩崎邦彦著
日本経済新聞出版社(2015年)
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本書を手にしたとき、そのタイトルから経営についての実務書ではと思い、読むことに躊躇しました。しかし、著者のこれまでの研究経歴などを知る私には、実務書を書くとか、書けるとかというようにイメージできません。まあ、いろいろ考えるより、斜め読みでもするかということで、本を開くことになります。
まず、「はじめに」にで、飛び込んできたのは、「木」と「森」の2枚の写真。そこには、読み手に「あなたは、どちらの風景にインパクトを感じるだろうか」と、問いかけてきています。そして、消費者1,000人に聞いた結果は、「木」の写真を選んだ人が91.1%だといいます。人々の心に響くのは、樹木がたくさん生い茂る「森」ではなく、たった1本の樹なのだと。何とシンプルな記述でしょう。
本文では、「今なぜ、引き算なのか」という著者の本書を通じてのテーマを、「足し算」「引き算」というわかりやすい言葉を使いながら、読み手に次々と問いかけてきます。しかも、その問いかけで用いる例は、身近なものばかりです。一つひとつの説明に、「そう、確かにそうだ」と思わせるだけでなく、それらが著者の専門とする「マーケティング理論」を、わかりやすく説いているのだと気づかされることになります。
たとえば、「引き算をすると、なぜ強くなるのか?」という章では、「引き算をすると買い手の知覚品質が高まる」としてラーメンをどこの店で食べるかを、買い手という言葉を使いながら消費者の行動を詳細に分析し、それを経営面からはどのように理解すればいいかを、読み手に自然と考えさせるように工夫されています。
皆さんは、経営学とか経済学、あるいは消費者行動論、マーケティング論を学ぶとき、ついつい肩肘を張ってはいませんか。私たちにとって、読みやすいが、考えさせる、そして著者の主張が自然と理解できる本というのも、数多くある良書の一つに数えても良いのではないでしょうか。
2017年6月
経済経営学科 教授 加藤秀雄
一般図書
[請求記号:675/I]