1970年代、知性のシンボルの一つ “難解本への挑戦”

『経済原論』

宇野弘蔵著
岩波書店(1964年)


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難しくて分かりもしないのに持ち歩いて、なぜか誇らしい気持ちになる。そんな本があった。宇野弘蔵著『経済原論』、である。1970年代、学生運動の吹き荒れた大学キャンパスにあって、時代の知性のシンボルの一つがこの本であった。宇野弘蔵は、経済原論を2種類書いている。分厚い『経済原論』(上巻1950、下巻1952、岩波書店、通称『旧原論』)とコンパクトな『経済原論』(岩波全書、1964、通称『新原論』)である。私の大学時代には『旧原論』は手に入りにくく、『新原論』をカバンの中に入れていた。持ち歩いてちらつかせるとモテるような気がした。これが70年年代の青春であった。

宇野弘蔵の『経済原論』が、今年(2016年1月)岩波文庫から復刊された。しばらく入手困難だったので学生に「読んでみなさい」と薦めることができなかった。今度はできる。本学のメディアセンターも所蔵している。とはいえ、今の時代には、宇野の経済学体系である三段階論も、資本主義に対する宇野の理解の核心をなす「形態が実体を包摂する」というフレーズも、とても受け入れられそうな気がしない。異邦人ならぬ異星人の言語に思えるかもしれない。

しかし、学生諸君に薦める理由はここにある。学問は、本当は難解でわからないのである。私の授業はわかりやすさを心掛けているが、わかりやすく授業をすると嘘をついているような気がして後ろめたい。1970年代の大学の授業は全く分からなかった。マルクスの『資本論』を読んでもレベルが違いすぎて、全く分からなかった。そのマルクスは学生時代にヘーゲルの著作を読んで、全く分からず劣等感にさいなまれる。これが大学の学問の本当の姿である。

宇野弘蔵『経済原論』は864円、文庫本なので買っても安い。資本主義経済を知りたいと思う人は是非この難解な本に挑戦して欲しい。


2016年12月
経済経営学科 教授 奥山忠信

一般図書 [請求記号:331/U]

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