幻想芸術の意味を読み解き、美術作品を鑑賞したくなる1冊

『幻想芸術の世界 : シュールレアリスムを中心に』

坂崎乙朗著
講談社(1969年)


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国立新美術館で「ダリ展」(2016年)が開催され盛況である。ぐにゃりとした時計を描くダリの作品はあまりにも有名であり、一目見たら忘れられない幻想的な絵画である。

ダリのような幻想世界を生み出す作家を集めて、わかりやすく説明した本書をメディアセンターで見かけ、懐かしさで久しぶりに読み返した。出版から半世紀たった今でも面白いと思うエピソードがたくさんあった。本書は西洋美術史研究家、美術評論家であり幻想派の画家を数多く紹介してきた坂崎乙郎の代表的な著書であり、扱われている芸術家は多岐にわたる。

アルチンボルト、ブリューゲルから、ムンク、マグリット、ルソー、セザンヌ、エッシャー、ジャコメッティと、マニエリスムからキュビズム、シュールレアリスムまで数多くの作品を題材に取り上げている。美術の教科書にも出てくる作品の鑑賞の仕方を幻想芸術という観点から読み解き、今までにない可能性を発見しようと試み、幻想芸術の意味と存在の必然性をわかりやすく説いている。

さてその内容であるが、こんな前書きからはじまる。「幻想とは単なるイリュージョンでもなければ単なるファンタジーでもなく、思考とならんで人間の意識のあり方である。思考が対象を把握する手段だとすれば、幻想は対象を発見する方法であり、思考以上に種種さまざまの錯誤を体験しなければならないだろう(抜粋)」と、作品を冒険しながら読み解いていこうとする出だしから本章へと展開していく。

○幻想の主題・死とエロス○子どもっぽさと夢○狂気の色彩○白紙の上の錯覚○装飾が生きて息づくなど、様々な章立てで描かれる本書は現代の鑑賞教育の手掛かりにもなるだろう。多様な、絵の読み取り方、切り口には引き込まれる。また、たくさんの絵画作品が白黒で紹介してあるので、美術書や美術館で本物を鑑賞しながら新たな発見を求めていくという楽しみ方も一興である。


2016年10月
子ども発達学科 准教授 森本昭宏

一般図書
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