英文法は奥深い-謎が解明される爽快感を味わおう

『現代の英文法』全12巻

大塚高信, 中島文雄監修
東京研究社出版(1976-2001年)
※第8巻は所蔵なし


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数年前に全巻が完結した。一番初めに刊行された『現代の英文法 第5巻 文(II)』(今井邦彦、中島平三、共著)から読まれることをおすすめする。

私事になるが、むかし聴講生として、今井邦彦先生の授業に出させていただいた時の指定教科書でもある。先生の御講義もさることながら、この本には英語の科学的研究というものが具体的かつ圧倒的な説得力を持って書かれていた、その記憶が今でも鮮明であるので是非一読をおすすめするわけである。

本書は「命令文」「疑問文」「感嘆文」について考察し、これらの文型および平叙文への接近法に示唆するところの多い「遂行分析」を考え合わせ、さらに、上記の諸文型とは異なる分析が必要となる「小文」を取り上げている。さらに文の結びつきにかかわる副詞的従属節に関する考究をおこない、最後に文の抑揚に関する管見を披露する。
いずれも学校文法の教科書にはかならず載っているトピックである。しかし「中学・高校では決して教えてくれない」英文法の奥深い事実と考察に満ちている。

特に「命令文」の形式および統語的特徴について分かりやすく概観したあと、それらの特徴を記述、説明するにはどのような深層構造を設け、どのような文法規則を設けたらよいか、すなわち変形文法による命令文の派生について検討するくだりが出色である。喩えはあまりよくないが、上質の推理小説を読むようで、いよいよ事件の謎が解き明かされる大団円に似た興奮を覚える。

たとえば、命令文というのは、表に主語が現れない構文であるが、それが2人称のyouであろうと感じ取れる。この漠然とした直感を、いろいろな統語的な事実やテスト(心理学の実験にあたるもの)で実証していく。また命令文に現れる動詞が、現在形でもなければ過去形でもなく、原形の不定詞形であること、命令文に現れることのできる述語が自制可能なものに限られること、命題についての真偽、蓋然性などを表わす文副詞certainly, possiblyなどは現れることはできないこと、受け身の命令文は作れないなど、命令文をめぐる謎は多い。これらを深層構造や文法変形といった道具立てを使って見事に解き明かしていくのである。


2011年7月
人間文化学科 教授 現影秀昭

一般図書
[請求記号:835/A/1-12]
第8巻 所蔵なし

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