写真を「読む」

『ロバート・キャパ写真集:フォトグラフス』

ロバート・キャパ著 / 沢木耕太郎訳・解説
文藝春秋社(1988年6月)


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写真は「みる」ものであることには違いありませんが、優れた写真を「みる」とき、私たちは実はその写真を「読んで」いることに気がつきます

一枚の写真には、街の歴史や実在の人物などの史実があると同時に、構図の美しさや人の表情、息をのむ瞬間をとらえているなど、その写真を撮った人のセンスや個人的な思いが反映されています。その点で、写真は客観性と主観性が共存するものであるといえるでしょう。ですから、ある写真をみるとき、私たちはそこに写った街並や人々の姿からその場面のストーリーを紡ぎ出しつつ、更に、多くの事象からその場面を選び、その部分を切り取った写真家自身にも思いを馳せずにはいられません。それはまさに、「読む」ことといえるでしょう。

ロバート・キャパは、20世紀を代表する写真家です。20代から30代前半にかけて戦場に赴いて多くの写真を残し、その最期もまた戦場でした。彼の作品は完成度の高さからか、史実としての真贋を問う声も多く聞かれますが、画としてのセンスを彼の写真にみるとき、真贋は気にならなくなります。キャパの写真は、まるで自分が今そこにいるような、そして目撃者になったような、また、時に哲学者になったかのような錯覚を起こさせます。その感覚の深度は見る人によっても様々でしょう。その点でも、「読む」ことと共通していると思うのです。

キャパの写真集を手にとり、一枚の写真を丹念に「読む」という感覚を是非味わってみてください。


2009年11月
こども学科 准教授 堀 科

一般図書
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