魚川 祐司 著
新潮社(2015年)
(心理学科 高田 圭二 専任講師 推薦図書)
「幸せとは何か」、という問いに対して人類はまだ明確な答えを持っていません。しかし、宗教は一定の回答を提示しており、仏教もその一つです。
仏教では、過去の行い(業:カルマ)が今の苦しみを生み出しており、今の苦しみはまた将来の苦しみを生み出すという「縁起」、そして苦しみの連鎖は生まれ変わっても繰り返されるという「輪廻」という考え方で世界を見ています。そして、「縁起」を駆動させる苦しみの原因には、物事への執着(しゅうじゃく)があると考えます。仏教における執着とは、快いものを求め、不快なものを避けようとする心の動きです。
「いやいや、快を求めて不快を避けるのは当たり前でしょ」と思われた方がほとんどでしょう。しかし、仏教では、あらゆる出来事は発生と消滅を繰り返し、一時として同じ状態ではないという「諸行無常」の考え方が中心にあります。私たちが追い求めたり避けたりする対象もまた常に変化していくため、どんなに努力をしても完全な満足を得ることはできないのです。そのため、執着によってもたらされるものは「不満足感」のみです。
このように、仏教では世の中の出来事そのものが苦しみの原因となると考えます。そこで仏教は、執着を捨て、苦しみから解放されることを目指します。それが「寂滅為楽(じゃくめついらく)」というあり方です。縁起によって生じる苦しみの生滅を徹底的に観察し、そこにある自分の執着に気づき少しずつ手放していく。これを徹底することで、安寧、安心感、平静さがもたらされます。これが仏教の考える幸せ(=涅槃寂静、すなわち「悟り」)と言えると思います。
つまり、幸せを決めるのは出来事の良し悪しではなく「執着」そのもの。それを手放すことで「悟り」につながるのです。「じゃあ悟りって結局なんなんだ?」と思ったあなた。ぜひ本書を手に取ってみてください。
2025年11月
心理学科 専任講師 高田 圭二

一般図書
[請求記号:181/U]