あなたはなぜその服を着ているのか

『ファッション イン ジャパン 1945-2020ー流行と社会』

島根県立石見美術館, 国立新美術館 編
青幻舎2021年)
人間文化学科 岡田正樹講師 推薦図書)


 

 10年前、20年前…あるいは70年前の人はどんな服を着て、どんな髪型をして、どんなメイクをしていたのだろうと、気軽に写真を眺めているだけでも楽しい本を紹介したい。本書は、2021年に開催された同名の展覧会の図録である。掲載されているのは、プロローグを含めれば1920年代のモガに始まり、2020年に至るまでの約100年の洋装の数々とその解説文。近現代日本ファッション史の流れを写真と文章で一望できる、ありそうであまりなかった一冊である。コム デ ギャルソンのようなデザイナーズ・ブランドも出てくるが、ユニクロのフリースやヒートテックも登場する。変形学生服、コギャル、ゴシック&ロリータといった多様なサブカルチャーズの社会文化的文脈も簡潔におさえている。

 ファッションはただ身体を包み込むだけのものではない。人々がどんな時代を生き、何に憧れ、何を主張し、何を強いられ、あるいはそのなかで何を選択してきたのか、そんなことを考えるきっかけとなるものである。

 現代を生きるあなたの装いも例外ではない。ファッションなんか興味ないね、という人も、さまざまな選択肢の中から、いま着ているその服を選んだ。隣に陳列されていた同じくらいの値段の服ではなく、その服を選んだのはなぜだろう。誰と会うか、どこに行くか、その場面場面によって着る服を変えようとするのはなぜなのだろうか。

 意識してほしいのはメディアのことである。本書はデザイナーやアパレル企業の思想、着る人々の実践に加え、それらを媒介するメディアの存在も重視している。ファッション誌を読む人は少なくなっていると思うが、ファッションのメディアは雑誌だけではない。映画、テレビ、広告、音楽、マンガ、ソーシャルメディア、そしてそれらに関わる人が、何らかのかたちで私たちの装いに影響を与えている――どんな服を好み、自分にはどれが似合うと考え、何を新しいと感じ、いつどこで何を着るのがふさわしいと考えるのか。

 過去から現在のファッションをおさえたら、この本の「続き」を考えてみるのもおもしろいだろう。近年、オンラインゲームのキャラクターが身にまとうアイテムにこだわる人、VOCALOIDやVTuberのファッションが好きだという人も少なくない。こうした「ヴァーチャル・ファッション」は、ファッション史のなかでどんな存在になるのか。

 自分の身近にある装いから、時代を、社会を考えてみてほしい。本書はその手がかりになる。

 

2022年8月
人間文化学科 専任講師 岡田 正樹

一般図書
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