世界中で巻き起こっている「私も!」の声

『82年生まれ、キム・ジヨン』

チョ・ナムジュ著 ; 斎藤真理子訳
筑摩書房(2018年)


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韓国で2016年に出版されると社会現象を巻き起こす大ベストセラーとなり、中国、ベトナム、イタリア、フランス、スペインなど世界16か国でも翻訳出版されるという話題の小説です。日本語訳は2018年の秋に刊行されましたが、日本の読者にも共感の声が広がっています。

 

主人公は33歳の女性、キム・ジヨンです。広告代理店で働いていたジヨンは出産を期に退職し、いまは1歳の女の子の母親業に専念、IT関連企業に勤める夫とマンションで暮らしています。そのジヨンがある朝突然、別の人格に成り代わってしまったのです。いったい何が起こったのか、というシーンからこの小説は始まります。そこからジヨンを診察する精神科医のカルテという仕立てで、ジヨンの誕生から少女時代、学生生活、就職、結婚、出産、子育てまでが丹念に綴られていくのです。平凡な一人の女性の半生、女の子の誰もが経験する日常的な出来ごと、でもそこには時代や地域や社会を超えて、多くの女性たちが経験してきた悔しさ、悲しさ、怒りがたくさんつまっているのです。誰もが経験するようなことばかりだからこそ、そこにある困難や絶望が際立ちます。

例えば、ジヨンが別人格になるきっかけとなったある言葉、公園で男性が何気なくつぶやいたその言葉は、仕事をあきらめ育児に奮闘する女性たちを追いつめる社会のまなざしそのものです。そしてそれは「ワンオペ育児」に苦しむ日本の女性たちにもそのままあてはまります。日本にもたくさんのジヨンがいるのです。

 

「女性差別はもう古い」と思っている人も一度、だまされたと思って読んでみてください。あなたのお母さんが、お姉さんが、妹が、友達が、同級生が、そして恋人が、何よりあなた自身が、どのような社会と向き合い闘っているのか、よくわかるはずです。世界中で#Me Tooムーブメントが巻き起こっている理由が理解できるはずです。その声に耳を傾け、一緒に考えてください。


2019年2月
子ども発達学科 准教授 杉浦浩美

一般図書
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